天風さんがヒマラヤから持ち帰り、生涯かけて体系化したメソッドの幹。ここが分かれば、あとは枝葉です。
ひとことで言えば、心と体の使い方を、セットで訓練する総合メソッドです。天風さんは「気の持ちよう」のような曖昧な精神論を嫌い、誰でも実行できる具体的な方法に落とし込みました。
構造はシンプルで、心の側に3本柱、体の側に行修(トレーニング)。まずこの地図を頭に入れてください。
ポイントは、心の柱が「寝ぎわ・目ざめ」(柱1)、「日中」(柱2)、「有事の瞬間」(柱3)と、1日の時間帯で役割分担していること。だから毎日の生活にそのまま組み込めます。
心には、自覚できる表層(実在意識)と、その下に広がる巨大な深層(潜在意識)があります。深層には過去の言葉や思いが少しずつ溜まっていて、それが性格や反応のクセ=「観念要素」になる。
潜在意識は、コップの濁った水のようなもの。濁った水は直接汲み出せません。でも、きれいな水を注ぎ続ければ、やがて入れ替わる。これが「観念要素の更改」のイメージです。
では、いつ・どうやって注ぐのか。天風さんが選んだのは潜在意識のフタがゆるむ「寝ぎわ」と「目ざめ直後」でした。
消極的な考えを寝床に持ち込まず、明るく楽しいことを連想しながら眠る。
鏡の中の自分に「お前は◯◯になる!」と一つだけ命令して眠る。
前夜の命令を「私は◯◯になった」と断定形で言い切る。
3つの具体的なやり方は 日常の心得 の1〜3番に整理してあります。
柱1が「眠りぎわに潜在意識へ注ぐ」訓練なら、こちらは起きている間、実在意識の側を鍛える訓練。別々の柱です。天風さんの言う「積極」は、無理にポジティブになることではなく、どんな出来事にも必ずあるプラスの面から先に見る習慣のこと。
消極的な言葉を絶対に口にしない。言葉は自分自身への暗示だから、マイナスの言葉を垂れ流すことは、自分の運命に泥を塗るのと同じだと天風さんは説きました。
いま自分の心が積極か消極か、もう一人の自分の目で常にチェックする。
ニュースや他人の言葉など、外から入ってくる暗示を分析し、消極的なものは受け取りを拒否する。
明るく朗らかに、誰にでも接する。人に与える態度そのものが、自分の心を積極に保つ訓練になる。
柱1と柱2は「ふだんの訓練」。でも人生には、突然の衝撃が飛び込んでくる瞬間があります。ショックな知らせ、理不尽なひと言、ヒヤッとする場面。そのときに使うのが第3の柱。
天風さんがヨガの修行から持ち帰った体勢「クンバハカ」。感情の衝撃が神経系を駆けめぐる前に、体の側でブロックする技術です。
この3つを同時に、衝撃を受けた瞬間に。所要1秒。心が乱れそうなとき、先に体を整えて心を守ります。詳しい使いどころは 日常の心得 の12番へ。
心身「統一」法という名前の通り、心の訓練だけでは半分。体の側にもトレーニングがあります。
天風さん考案の瞑想法。ブザーや鈴の音に耳を澄ませ、音と一つになるくらい聴き込み、音が止んだ瞬間の静寂に入る。雑念が消えた「無念無想」に、誰でも入りやすいよう設計されています。
静かに、深く、長く。呼吸を意識的に整えることで、生命のエネルギー(天風さんの言葉では「活力」)を取り込む訓練。
体を整える体操群。天風会の行修会で今も実修されています。ここは実際に体で習う領域なので、興味が湧いたら書籍や天風会の行修会へ。
天風さんは「積極」を「せっきょく」ではなく「せきぎょく」と読んだ、と天風会で伝えられています。講演録の音源でも独特の読み癖が残っていて、門下ではこの読みが親しまれてきました。
ふつうの「積極性」と区別して、天風哲学の中核概念としての「積極=何が起きても揺らがない心」を指す、いわば固有名詞。本を読むとき、頭の中で「せきぎょく」と鳴らすと、少し弟子気分が味わえます。